小説『春を待つ蟻』最終章その七<了>

 新瑞橋駅H7出入り口まで、愛名と手をつないで歩く。
 こなくていいと言ったのに、両親まで私を見送りについてきた。

「真衣ちゃん、約束覚えてる?」

 愛名が私と繋いだ手をブンブン振り回し、聞いてくる。
 私が首をひねると、「二人で旅行に行く約束だよ!」と怒った声を出した。

「……ああ。覚えてるよ、ちゃんと。大事なことも覚えるようにしたから」

 私が笑うと、愛名もあははと声を上げて笑う。

「……それにしても、真衣。数日でどうしてそこまで愛名と仲良くなったんだ?」

 父の疑問はもっともだ。
 葬儀の時一言も口を利かなかった二人が、ここまで仲良くなるなんて思いもしなかっただろう。

「もしかして……美味しいもの、食べ歩いてたの?」

 母が茶化すように言うものだから、二人で声を上げて笑った。

「食べたね。宇都宮の餃子も、焼きまんじゅうも。美味しかったよね、愛名」
「うんうん!」

 私達二人の間にあった出来事は、二人だけの秘密なのだ。


 地下鉄入口の前で、私はもう一度愛名を抱きしめた。

「愛名、いつでも電話しておいで」
「……うん」
「愛名、ありがとうね」
「真衣ちゃんありがとう……」

 腕の中の愛名が、ひっくひっくとしゃくり上げ始めてしまう。
 その子供らしい姿に、私は微笑んだ。

 地下に降りる階段を途中まで降りて、後ろを振り返る。
 すると愛名は泣きべそをかいたまま大きく手を振っていた。

「真衣ちゃーん! 大好きー!」
「私も愛名、だーいすき!」

 私も大きく手を振って、恥ずかしげもなく叫んで返す。

 ――こういうところは大人にならなくてもいいかもしれない。

 笑いながら、私は前を向いた。

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